初めて、母親同伴の入学式に臨んだシン。
少し照れ臭かったが、堂々と新入生代表の挨拶をし、皇后と一緒に宮へと戻ってきた。
正殿へ戻る前に 皇后は東宮殿でシンと一緒にお茶をすることにした。
「皇后さま、お疲れさまでした」
「ふふふ、母親としては当たり前のことです。シン、立派な挨拶でしたよ」
「ありがとうございます。あの・・・皇后さま・・・」
「何かしら?ひょっとして、許嫁のお嬢さんの話ですか?」
「はい。皇后さまは、誰かご存じなのですか?」
「残念ながら、私も知らないの。昔、昌徳宮に住んでいた頃、【親友に会いに行ってくる】と言ってはよく先帝さまがあなたを迎えに来ておられたわ。おそらくその親友のお孫さんだと思うんだけど・・・あなたにどこに行ってたのか聞いても、先帝さまと男の約束をしたから言わないって。ただウサギさんみたいな女の子と遊んできたって言ってたわ。多分、その子じゃないかしら」
「ウサギ?・・・ですか・・・」
「ええ。あなたもまだ3~4歳だったし、それ以上は聞き出せなかったの。とりあえず可愛い女の子と遊んできたんだなって思ったことは覚えているわ」
「そうですか・・・ハァ・・・一体、誰なんだろう?」
「ふふふ、そんなに気になる?」
「///気になると言うか・・・王立に通う王族の令嬢とだけは婚姻したくないと言うのが本音です。中身が無さすぎる」
「クスクス・・・分かる気がするわ。でもあなたも性根を据えないと、同じに見られるわよ」
「えっ!?」
「皇太子という座の上に胡坐をかいて、何の努力もしない無能男?」
「皇后さま!!」
「クスクス・・・だって事実でしょ?何の感情もなくただ流されているだけの人間なんて、何の魅力もないもの。いつまでもそんなだと、あなたの肩書に好意を持っている女性しか集まらないと思うわ。恋愛は無理ね」
「・・・・・」
「シン、幸い同じ趣味の生徒さんが集まっている学校だもの。友人と切磋琢磨して、もっと自分を磨きなさいな。そして本当のあなたを見てくれ、理解してくれる友人や女性を探しなさい」
「・・・はい、頑張ります。母上、ありがとう」
「クスクス、いいえ。じゃあ、とっておきの情報を教えるわね。あなたと同じ満点で主席入学した美術コースの女生徒ですって。陛下は、絵画コンクールの表彰式で偶然お会いになったみたいよ」
「えっ!?」
「クスクス、あなたが一番欲しい情報だと思ったんだけど?あともうすぐ女官の人事異動があって、東宮殿に一人尚宮が配属されるわ。一応、皇后が女官の統括者だから報告が上がってくるんだけど、その尚宮、前の部署が不明なのよ。多分、今まで皇太后さまの密命を帯びて、許嫁のお嬢さんに訓育をしていたんじゃないかしら」
「その尚宮の名前は?」
「チェ尚宮よ。機会があったら、そのお嬢さんの事を聞いてみればいいわ」
「そうしてみます。色々とありがとうございました」
「大学は王立に戻ることになるだろうし、高校生活を有意義に過ごしなさい。この3年間でどこまであなたが成長するか、楽しみにしています。さぁ、いい加減私も正殿に戻らないと、陛下に怒られちゃうわ。じゃあ、頑張ってね」
皇后はそう言うと、東宮殿を出て行った。
シンは、皇后が言ったことを思い返し、己の行いを振り返ってみた。
(ハァ・・・一人殻に閉じこもって、流されていただけだったかも・・・情けないよな。それと美術コースで成績優秀な奴か・・・俺のウサギさんは、どんな子に成長したんだろ?)
その夜、シンは、長い髪の毛をウサギの耳のように二つに括った目の大きな女の子と手を繋いで、庭を走りまわっている夢を見た。
(思い出した!あの子だ・・・名前は・・・ダメだ、思い出さない。おじい様に勉強頑張るから、結婚させてくださいって、必死にお願いしたんだった。あの子なら・・・絶対に探し出してやる!)
芸校の授業は、必須科目はかなりハイペースで進んでいき、英才教育を受けていない生徒たちはかなり大変そうだった。
そして選択授業は、カメラや映像の専門知識を色々と教えてもらえ、シンにとってはとても楽しい時間だった。
ただ意見を出しあい、作品を仕上げる作業だけは苦手で、シンはグループの生徒たちの意見を聞くだけだった。
そんなある日、シンは映像コースの教師に呼び出された。
「殿下、自分の考えを口にするのは苦手ですか?」
「えっ!?あ、はい・・・」
「殿下は、映画をご覧になることはありますか?」
「はい。陛下が好きですので、よく一緒に映画鑑賞をします」
「クククッ、ヒョンは相変わらず映画バカのようですね」
「えっ!?」
「失礼しました。私と陛下は同級生で、いつも同じグループでした」
「そうだったのですか。知りませんでした」
「殿下、映画を見る時、自分ならこの場面はこういうアングルで撮りたいとか、そういう風に見てごらんなさい。そうすれば、自然と意見が言えるようになる筈です」
「はい」
「クスッ、ヒョンは、ホント言いたい放題でしたよ。冬の寒い時期にヒロインを入水させろとか・・・あの時は、あまりにムカついたんで、ヒョンに女装させてヒロインの代役をさせましたよ。案の定、次の日からヒョンは1週間ほど風邪で寝込んでましたよ」
「プププっ・・・そんなことがあったのですか?」
「はい。殿下、その時のヒロインが皇后さまです」
「えっ!?」
「皇后さまは、自分の所為でと情に絆されたようです。私達からすれば、自業自得なんですがね。二人の婚約が決まった時、グループの全員が自分が代役をすれば良かったと後悔したことは、ヒョンには内緒にしていてください」
「プッ、はい」
「よし、いい笑顔だ。カメラのセンスは良いものを持っていると聞いています。映像にもどうか興味を持ってください。これは、私からのプレゼントです。DVDに落としてきました。宮に帰って一人で見てください。かなり笑えますよ」
「はい、良いお話をしてくださり、ありがとうございました。明日からも宜しくお願いします」
その日を境に シンはグループ活動も楽しく参加できるようになり、そのままそのメンバーといつも一緒に行動するようになった。そして気づけば、クラスメートの女生徒が一人、仲間に加わっていた。
シンは、選択授業の時は楽しく付き合えたが、友人としては何かが違うような気がしていた。
唯一、ビデオオタクのリュ・ファンとはウマが合うようで、お互い口数は少ないが分かりあえるような気がしていた。
「シン、アイツらに無理に付き合うことはないよ。僕は、将来必ず顔を合わすことになるだろうし、縁は切れないけどね」
「どういう事だ?」
「一応、僕たち、それなりの会社の御曹司なんだ。周りは、僕たち自身を見ずに、後ろにいる父親や会社ばかり気にする奴らばっかりでさぁ。で、僕はビデオに逃げ込んだけど、インとギョンは捻くれちゃったんだよね」
「・・・その気持ち、嫌ってほど分かる。俺もそうだし・・・」
「確かに皇太子なら、僕ら以上かもね。シン、同情するよ」
「・・・ファン、同情されても嬉しくないぞ」
「クスクス、だよね。ただね、インの遊び友達だと思うんだけど、あのヒョリンは解せない。僕らが毛嫌いしてる女たちと同じ匂いがするんだけどなぁ・・・シン、ヒョリンには気をつけた方が良いよ」
「分かった。。。ファン、美術コースに知り合いはいないか?」
「美術コース?どうして?」
「名前を思い出せないんだけど、幼馴染がいるらしいんだ。どうしてもその子に会いたくって、この高校に来たんだ」
「ひょっとして女の子?宮では教えてもらえないの?」
「ああ、色々事情があって、教えてもらえない。探したいなら自力で探せってさ・・・去年の絵画コンクールで入賞して、入試テストは俺と同じ満点で入学したってことだけ、母上がこっそりと教えてくれた」
「めちゃくちゃ優秀な子なんだね。それだけの情報があれば、分かるかも・・・僕に少し時間くれる?」
「ああ、頼む。あと、この事は誰にも言わないでほしい。特にギョンに知られると、煩そうだし・・・」
「クククッ・・・確かに。まぁ、任せといて」
数日後、絵画コンクールで入賞した女生徒は2人いて、1-Cのイ・ガンヒョンとシン・チェギョンだとファンが教えてくれた。
「入試テストの結果は分からなかった。あとお節介ついでに二人の事、調べたんだ。でもさぁ、二人とも情報操作されているみたいで、何も分からないんだ。うちの父さんの会社より大きな力が働いてると思う」
「・・・そんな事があるのか?」
「小さい子ならよくある話だよ・・・誘拐防止の為にね。僕達にはSPが付いたけどさ」
「宮でいう翊衛士みたいなもんか・・・とりあえず、今度の試験結果が貼り出された時、どちらか分かると思う。ファン、ありがとうな」
(イ・ガンヒョンとシン・チェギョンか・・・どっちなんだろう?でも分かったところで、どうやってお近づきになればいいんだ?ファンも女生徒と話すの苦手そうだよな・・・ハァ・・・)