翌日から、チェギョン始動の改革案が、次々と実行されていった。
事務職の職員たちはハギュンの指導に悲鳴をあげていたが、女官たちにはすこぶる好評で、宮は活気に満ちだした。
またミン・ソオンの加入で、少しの怪我や病気はすぐに診てもらえることも喜ばれた。
「チェギョン、米の研ぎ汁で掃除するって何でだ?」
「はぁ、歴史的建造物を後世にしっかり残すつもりなら、このぐらい知っておこうね。米ぬかの油分で艶が出るのよ。扶余の里の柱とかピカピカだったでしょ?」
「確かに・・・」
「今までしてなかった事の方が、私的には驚きだよ」
「面目ない」
こんな調子ながら、シンはチェギョンから色々な事を学んでいた。
宮の改革と同時に宮外では、有閑倶楽部の重鎮たちがソ・ファヨンに加担していた代議士や企業家たちを様々なスキャンダルや不正で表舞台から降ろしにかかっていた。
それらの報道によって、気づけば宮の醜聞は一切報道されず、世間は関心を失くしていった。
宮廷内の整備が着々と進む中、チェギョンは時間を作っては皇后さまの許に訪れ、お喋りしたり、刺繍をしたりと楽しい時間を過ごしていた。
シンもまた時間があれば、皇后さまに顔を見せに行き、体を気遣い、親子の会話をもつようになった。
「シン、学校には通っていないようですが、チェギョンとの勉強の時間の方が楽しいのかしら?クスクス・・・」
「チェギョンの家庭教師は鬼で、正直、付いていくのが大変です。でも学校に通うより、有意義な時間を過ごせています」
「そうよね。チェギョンは、私にも色々な事を教えてくれるわ」
「それにチェギョンの周りにいる人間は、とても個性的です。神話の御曹司とはあれ以来会ってませんが、ウビンさんが彼の話をよくしてくれます。チェギョンが、帝王学は机上の理想論にすぎないと言った意味がよく分かりました。クスクス・・・」
「ふふふ、私もスイミングに行った時、恋人のジャンディさんから彼の話を聞いたけど、かなりハチャメチャな人みたいね」
「はい。ウビンさんが、ジュンピョは極端過ぎだが、皇太子も24時間皇太子でいる必要はない。プライベートはイ・シンとして過ごせと言ってくれました。そう言われて、肩の力が抜けたというか自分の立場をやっと受け入れられた気がします」
「そう、ウビンさんが・・・彼も自分の立場を受け入れるには、相当な葛藤があったでしょうに・・・」
「相当、荒れた生活をしていたらしいですよ。でもジャンディさんに出会って目が覚め、チェギョンに出会って覚悟ができたそうです」
「そう・・・この子もチェギョンの様に真っ直ぐで心優しい子になってくれるかしら?シン、この子が道を踏み外しそうになったら叱ってあげてね」
皇后は、愛しそうに大きくなったお腹を擦った。
「母上の御子だから、絶対に優しい子に違いありません。大丈夫ですよ」
「ふふ、自分も優しいと自慢しているのかしら?それとも自惚れ?」
「///母上!!」
「そうそう、チェギョンが、来週、家に戻るらしいわね。なぜか、シン、貴方は知ってる?」
「えっ!?そんな話は聞いていません。直接、本人に問いただしてきます」
血相を変えて部屋を飛び出していったシンを見送った皇后は、ハン尚宮と顔を見合わせて笑った。
「クスクス、ハン尚宮、今のシンを見た?」
「はい、皇后さま」
「シンはチェギョンに借りを返しているつもりらしいけど、借りばかりが増えているような気がするわ」
「・・・噂では、どこに行くのでもチェギョンさまに付いて回られているとか。。。」
「まぁ、クスクス・・・チェギョンが宮に来てくれて、一番喜んでいるのはシンかもしれないわね」
「はい、皇后さま」
シンが東宮殿に戻ると、エントランスでコン内官とキム内官、そしてシン・ハギュンがチェギョンと話をしていた。
「チェギョン!家に帰るって本当か?」
「えっ、あ、うん。来週、戻ってくるね」
「ダメだ!ずっとここにいろよ。それでもチェギョンが戻るなら、俺も行く。宮には戻らない」
「「「・・・・・」」」
「殿下、落ち着いてください。1週間ほど戻るだけです」
「えっ!?何だ、そういう事か・・・焦った~」
「・・・殿下、水を差すようですが、先程のお言葉、ずっとは無理です」
「えっ!?」
「我々の立場は、非常に微妙です。長居すればするほど、王族たちから有らぬ疑いを掛けられる。そして、また宮が揺らぐ」
「・・・・・」
「もう少し宮が落ち着いてきたら、潮時だと判断し、本来の場所に戻ります。その準備として、今、打ち合わせをコン侍従長とキム内官としておりました。来週より侍従長が殿下に付き、キム内官は陛下付きに戻ります」
「殿下、話し合っていたのですが、陛下が公務に赴かれ、どうしても書類の決算や執務が滞りがちです。殿下、簡単なものから執務を覚えていっていただきます」
「分かった・・・それよりチェギョンも戻るのか?」
「うん・・・いつまでも居座る理由がないしね。皇后さまのご出産までは居たいんだけど・・・」
「居ろよ。これは命令だ。絶対に居ろ!」
「・・・王子病」
「///なっ、チェギョン!!」
「ぷっ、クククッ・・・チェギョン、お前のお姫さま病も相当なもんだ」
「ふふふ、自覚してる」
「さぁ、もう一人のお姫さまをどうするか・・・コン侍従長、今も女官の人事権は最高尚宮ですか?」
「そうだ」
「では、チョン最高尚宮に会いたい。アポを取ってほしい」
「分かった。すぐにここに来てもらおう」
「お願いします」
コン内官が出ていくと、ハギュンは腕組みして目を閉じてしまった。
(女官の人事異動って・・・まだ問題がある女官がいるのか?それにもう一人のお姫さまって、姉上の事か?)
しばらくすると、最高尚宮だけでなく、皇太后とノ元尚宮まで一緒に東宮殿にやってきた。
皇太后が現れ、一同は全員起立し、頭を下げた。
「皆、頭を上げておくれ。女官の人事権は最高尚宮にあるが、総責任者は皇后の役目。ミンが動けないなら、私が動かねばと思い、一緒に来ました。ハギュン殿、まだ問題のある女官がいるのですか?」
「問題がある訳ではありませんが、できましたらヘミョンさま付きの尚宮と女官を総入れ替えした方がいいかと・・・」
「ユン尚宮ですか?彼女は、昔からヘミョンに付いていて信頼を得ています。イギリスまで同行した女官を更迭のは、それなりの理由が必要です。理由を言いなさい」
「昔から付いているから、情に流されやすい。はっきり言って、甘やかせすぎです。ノ尚宮さま、貴女も心当たりがおありでしょう?」
「・・・そうですね。もっとお諫めしていれば、孝烈殿下はあんな結末を迎えることはなかったと未だに後悔しています」
「ノ尚宮・・・」
「皇太后さま、宮が何の問題もなく、ただの公主として過ごせるのなら、ユン尚宮は適任でしょう。ですが、シン殿下がご婚姻されるまで、ヘミョンさまには皇后さまの代役をしていただかなければなりません。ユン尚宮では、正直役不足です」
「イギリスで何か問題があったのですか?」
「・・・はっきり言いますが、留学すればスキップは当然。なのになぜヘミョンさまはシン殿下と同レベルの学力しかないのでしょうか?それに私が朝の9時過ぎに訪問した時、まだご就寝中でした。尚宮なら、生活が乱れるようなことはさせません。おそらく万事が、ヘミョンさまの思うままだと思われます」
「・・・知らなかった。チョンや、誰か適任はおらぬか?」
「恐れながら申し上げます。優秀な尚宮はおりますが、公主さまを厳しく指導できる者となると・・・」
「難しいというのか・・・」
「はい。できましたら、そこにおりますチェ女官を尚宮に昇格させ、公主さまに付けたいと思います」
「ちょ、ちょっと待ってください。それは困る!!」
突然のハギュンの反対に 一同は驚き、首を傾げたのだった。