翌日、いつものように元気に登校したチェギョンだが、いつもと違う雰囲気に首を傾げた。
そして教室に入ると、すぐにガンヒョンに駆け寄った。
「ガンヒョン、おはよう。何か雰囲気がおかしいんだけど、何かあったの?」
「はぁ、あんたねぇ~、昨日の事、忘れたの?」
「昨日?えっ、え~~~!!ひょっとして私、注目されてる?」
「ひょっとしなくてもそうよ!」
「ど、ど、どうしよう・・・」
「・・・無視よ。無視するのが一番」
「う、うん・・・げっ、ガンヒョン、何か無理そう・・・」
チェギョンとガンヒョンがコソコソ言い合っていると、目の前にヒスンとスニョンが仁王立ちしていた。
「はは・・・ヒスン、スニョン、おはよう」
「ちょっとチェギョン!聞きたいことがあるでござる」
「あはは・・・二人ともちょっと顔怖い」
「あんた達、もうすぐ担任が来る時間よ」
「そんなの関係ない!私ら、ガンヒョンにも聞きたいことがあるでござるよ。私ら4人、親友じゃないでござるか?」
「そうでござる。2人でコソコソズルい!」
「・・・はぁ、分かったわ。チェギョン、覚悟しなさい」
「な、な、何の覚悟よ?!」
その時、担任が教室に入ってきて、皆が席に着きだしたが、ガンヒョンはチェギョンの手を引っ張って教卓の前に立った。
「先生、このままじゃ授業になりそうにないんで、少しだけ私たちに時間をください」
「授業にならないのは困るわね。じゃ手短にどうぞ」
「みんな、昨日の昼休みの騒動は知ってると思う。昨日、学食に来てた人が私を知っていたのは、私が王族会を束ねる最長老の孫だから。以上!」
ガンヒョンの告白に クラスメートたちは呆気にとられて、ポカンとしてしまった。
「次、チェギョンよ。大丈夫よ、サラッと言っちゃいなさい」
「う、うん。えっと~知らなかったんだけど、皇太子殿下とはハラボジ・アッパ同士が友達だそうです。以上!」
『え~~~!!!』
「ガンヒョン、全然大丈夫じゃないじゃない」
「みたいね。後は無視よ。先生、ありがとうございました。席に戻ります」
ガンヒョンはクラスメートたちを無視するように、チェギョンの手を引き、席に戻っていった。
(あんたの言い方、間違っちゃいないけどインパクト有りすぎなのよ。この後、本当に授業になるの?)
美術科の教室が大騒ぎになっている同じ時間、シンのいる映像科の教室はシ~ンと静まり返り緊張感が漂っていた。
それもそのはず、シンが無言で教卓の前に立っていたからだ。
「イン、ギョン、ファン、立て!」
3人を立ち上がらせると、シンは先生に一礼してからクラスメートに向かって話しはじめた。
「『授業を円滑に進めるために生徒たちは、順番で色々な係や当番をしている。皇太子だから特別待遇だと思ってるのか?なら、王立へ行け。芸校に来たなら、一生徒イ・シンとして係をしなさい』と・・・昨日、幼馴染に怒られた。俺ら4人がしなかった所為で、クラスメートの皆に多くの負担・迷惑を掛けてるとも言われた。何事にも無関心だった俺は、こんな簡単な事にも気づかなかった。今まで、本当に申し訳なかった。これからも公務で早退や遅刻をすることがあり、皆に迷惑を掛けるかもしれない。でもできる限り、係や当番をやろうと思う。一応、日直の仕事と掃除の仕方は教わってきた。でもまだ要領は悪いと思う。そういう時は、助言してくれると有難い。よろしく頼みます」
シンがクラスメートに頭を下げると、御曹司3人組も慌てて頭を下げたのだった。
「あっ、それから俺がミン・ヒョリンと付き合っているという事実はない。一昨日、そんな噂があると聞いて本当にビックリした。まだその噂を信じているヤツを見かけたら、俺が否定していたと伝えてほしい。それから翊衛士が校内に入ることになった。皆に窮屈な想いをさせてしまうかもしれない。申し訳ないが、慣れてくれ。俺の話は、以上です。先生、朝の貴重な時間を割いてしまって申し訳なかった。席に戻ります」
「あ、はい」
続いて、担任から向こう1ヶ月間4人が日直とトイレ掃除をすると聞いて、クラスメート達は突然のシンの話に納得した。
そしてミン・ヒョリンがシンの秘密の恋人というのは、ヒョリンの自作自演だったことが判明し、口には出さなかったが『やっぱり』と思ったのだった。
2時間目が終了した数分後、映像科の廊下が騒がしくなって、生徒たちが廊下に出ると、翊衛士とヒョリンが一悶着起こしているのに遭遇した。
一人の翊衛士がヒョリンを後ろ手に拘束し、もう一人の翊衛士が前に立ち塞がっている。
「そこを通してって言ってるだけじゃない!シンに話があるの」
「できません。陛下と殿下より貴女を殿下に近づけるなと言い渡されています。それから殿下を呼び捨てにするなど言語道断!今度したら、不敬罪で宮内警察に連行します。気をつけなさい」
「なっ!じゃ、じゃあイン、カン・インを呼んでちょうだい」
「ご友人なら、携帯で呼び出せばいいでしょう?」
「携帯にかけても繋がらないから言ってるんじゃない!近づかないから、呼ぶくらいしなさいよ」
「バカですか?こんな大声で叫んでたら、教室内にも聞こえている筈。なのに廊下に出てこないということは、貴女には会いたくないという意志表示だといい加減気づきなさい」
「うそ・・・インは私の味方のはず・・・」
「勘違いじゃないですか?はぁ・・・貴女は、空気が読めないんですか?先程から、生徒さん達が貴女を白い目で見てますよ。こんなに騒ぎ立てて、恥ずかしくはないのですか?」
「///・・・・・」
「ミン・ヒョリンさん、昨日、コン内官さまに警告を受けたにも関わらず、騒ぎ立てる貴女の神経が分かりません。我々の任務の一つに報告の義務があります。こんなことを続けていたら、貴女は間違いなく塀の中か国外追放です」
「えっ!?」
「もっと現実を見なさい。パク翊衛士、舞踊科の教室まで送り届けろ!!」
ヒョリンが去っていくと、生徒たちが一斉にユン翊衛士長をやんやと持て囃しだした。
(ふぅ、あの女生徒は、一体どれだけ嫌われているんだ?殿下も凄い子に目を付けられたもんだ)
美術科と映像科の2つの爆弾発言とこの一件の事は、すぐに学校中に駆け巡り、昼休みには生徒たち全員が知る事となった。
そして名前を明かさなかったにも関わらずシンが言った『幼馴染』は、シン・チェギョンに間違いないと断定されたのだった。
その日の放課後、チェギョンとガンヒョンは、誰もいない美術準備室に入り、コソコソと話し出した。
「あんたが殿下の幼馴染って、完全にばれたわね」
「はぁ・・・何でシン君はばらすような発言をするかなぁ・・・」
「で、あんた、どうするわけ?」
「どうって?」
「殿下との婚姻よ。承諾するつもり?」
「な、な、何でガンヒョンが・・・」
「知ってるかって?最長老の孫なら知ってて当然でしょ」
「あはは・・・だよね。。。一応、断ったんだけど、皇太后さまからシン君と友達から始めては?って言われてさぁ。それに色々あって、今、宮と縁が切れないと言うか、無下にお断りできない状況なんだよね」
「何かあるのね。昨日、おじい様、凄い形相で宮から帰宅したのよね。あんたの事が関係してるのかも・・・」
「おじい様にも迷惑かけちゃって・・・面目ない。私が謝ってたって伝えてもらえる?」
「それは良いけど・・・ねぇ、宮を甘く見ちゃダメよ。殿下の悪いイメージを払拭させるために、宮は婚姻を急いでくるかもしれない。精々、迫られないように気をつけなさい」
「え~~!!」
「バカ、声が大きい。下校ピークは過ぎたし、そろそろ帰るわよ」
チェギョン達が帰宅の途についている頃、シン達は翊衛士監視の許、トイレ掃除に励んでいた。
黙々とトイレ掃除をこなすシンを見て、翊衛士長のポーカーフェイスが一瞬崩れた。
(クククッ、チェギョンさまに相当扱かれた成果が出てるな。。。御曹司たちも頑張ってるんだろうけど、殿下に比べるとまだまだだな。彼らにもチェギョンさんの特訓が必要かもな)